■いすに似ていた古代のたたみ

 たたみはしきものの一種ではありますが、ほかのしきものとくらべると、少し変わった性格を 持っていました。そして日本人の文化に、とても大きな影響をあたえてきたしきものです。

 たたみの生まれた平安時代(9世紀ごろ)、イグサもわらも今よりずっと貴重なものでしたから 、たたみにすわったのは、広い領地を持っている貴族たちでした。

そのころの貴族たちが住んでいたのは、寝殿造りという木造の、風通しのいい家です。衣服や調 度をしまっておく「ぬりごめ」という部分をのぞくと、あとはほとんどかべのない広いワンルー ムの家で、ゆかは厚い板張りでした。百人一首や絵巻物に出てくる貴族たちは、この広いワンル ームのあちこちに、たたみをおいて暮らしていたのです。ちょうどわたしたちが、いすやベッド をおくように。お客さまをまねく日や、神さまをまつる儀式の日には、そのつどたたみのおき方 を変え、その日にふさわしいへやにもようがえをしました。へやいっぱいにしきつめるのではな く、すきなところにおいて使うたたみですから、おきだたみといっています。

 このころ、一般の人びとの家にはまだしっかりとしたゆかはなく、土間にむしろやわらをしい ていましたが、貴族は清潔なゆかとたたみの住まいに、はきものをぬいで暮らす習慣をすでに持 っていたわけです。

 9世紀から12世紀にかけての平安時代は、わりあい平和のつづいたときです。きゅうくつな正 座の習慣もまだありません。貴族たちは,ゆったりとした衣服を着て、たたみの上であぐらをか いたり立てひざして、歌をよんだりおしゃべりしたり、ときにはごろっと横にもなって,のんび り優雅に暮らしたようです。たたみは、いすにもソファーにもベッドにもなり そのうえ夏はす ずしいところ、冬は日当たりのいいところ、と移動のできるべんりな家具でした。

 ところで、人より高いところにすわると、人間なんとなくえらく見えますね。ヨーロッパの王 さまたちは、家来よりも一段と高くてりっぱないすにこしかけましたし、現代の会社でも、社長 や部長は新入社貝より大きないすを使っています。

 平安時代のたたみには、いろんな大きさがあって、身分の高い人ほど大きくて厚いたたみを使 いました。たたみべりの色やもようも身分によるきまりがありました。ひな人形の内裏さまは、 豪華なヘりのついた厚いたたみにすわっていますね。このころの貴族が厚いたたみを使ったのは 、保温やクッションのためだけではなく、人より高いところにすわるのが目的だったかも知れま せん。こんなところは、たたみもいすも、よく似ています。

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