青畳がもたらすくつろぎパワー
 〜高齢者における畳の有用性〜

卒業研究発表会  2001年11月22日
東京福祉専門学校 介護福祉部U部

【18班】 大塚美保 菅野詩子 田中礼子 野口真由美 山本梢
はじめに
 「どうして実習先の高齢者の施設に、くつろぐための畳の空間が少ないんだろう‥・?」 
 「畳屋さんの前を通る時のアノ香り、あれはいったい何なんだろう‥・?」
 これらの疑問から、私たちの畳研究は始まった。

研究目的
 畳の歴史・構造・性能・現在の畳事情をふまえた上で、上手な活用法を通じて、畳のこれからと高齢者にとっての畳が何であるかを探っていきたいと思う。

仮説  畳には人をくつろがせる『何か』があるに違いない!

研究方法  主な活動内容は以下の通りである。
訪 問 先
(ご協力・ご指導を頂いた皆様)
具体的な内容
日本女子大学        南澤助教授 物理学者から見た畳の性能
森林総合研究所     宮崎博士 森の香りの人体への影響と畳の関係
聖隷三方原病院     藤島博士 和室リハビリ室の活用法
畳博物館兼畳職業訓練校   山下館長 畳の歴史・構造と畳職人養成
※水上畳店        水上様 現在の畳事情
※タム地域環境研究所  林様 休耕田利用によるイグサ栽培
 ※印+熊木畳店他3軒合同   月1回のイグサ小物つくり研究会開催
畳アドバイザー   荒井様 今後の展望
東京製作所     橋本様 日本初!?イグサの香り抽出実験
国会図書館   書籍・文献の閲覧
イナダ有限会社   イグサ粉末を使つた調理ならびに試食

結果
【畳の性能】
空気の浄化作用
(天然の空気清浄器)
有害な二酸化窒素を吸着。
最近ではホルムアルデヒド・
O-157に対する抗菌性が
発見された
湿度調節作用
畳1枚で500ml吸
湿。夏涼しく、冬暖
かくなるよう湿度を
自然調節
断熱・難燃・保湿性・
吸音・遮音効果

ワラ床に含まれる、たくさ
んの空気によってもたら
されている
香りの森林作用
この香りが好きな
人にとっては、ア
ロマテラピー効果
も見られる
弾力性
硬すぎず柔らかすぎな
い。歩行時、足の裏を
刺激し脳を活性化する
※就寝時、程よい弾力性で体圧を分散し、また衣類や布団以上に畳が汗を吸収することから熟睡感が高いといわれている。これに青畳の香りが加わればさらに良眠効果が得られるであろう。

畳の上手な活用法
●聖隷三方原病院(静岡)の場合
1.和室リハビリ室‥・10年前から病院内での和室の有能性を立証。
2.産科での分娩待合室‥・リクライニングシートか畳を、妊婦さんが自由に選択。
3.日本初のホスピス‥・限られたスペースの中の、たった2畳の存在感。
《ホスピスの理念》
肉体的な苦痛を取り除くための治療を行うことだけでなく、精神的な苦痛・孤独・不安などを軽減し、患者さんや家族とともに生命の意義を考えつつ、最後まで人間らしく尊厳を持って有意義に生き抜くことができるように援助していく。
    ※病院にとって一番恐いのは院内感染。お茶の出がらしによる掃き掃除で防止の努力。
●授産施設(世田谷)の場合
20年前より、限られたスペースの有効利用と少しでもくつろげるようにとの配慮から畳ベッドを導入。
●京阪病院(大阪)の場合
入院生活をより一層過ごしやすくするために、畳の香りのある軽量置き畳を購入。患者さん自らが居室や談話室で自由に活用。
●長岡図書館(新潟)の場合
子ども達の読み聞かせの部屋を畳にしたところ、以前よりもさらに本に対する興味がUP!
●食品としてのイグサ粉末
元来、利尿効果のある漢方生薬。食物繊維はレタスの40倍。他にカルシウム・カリウムなど、現代人に不足しがちな成分含有。
           商品例 :茶・ふりかけ・蒲鉾・饅頭・飴・アイスクリーム・うどん・そうめん
           調理例 :てんぷら・ホットケーキ・卵焼き・白玉だんご
○これからの活用法
・イグサ小物開発(作る喜び・贈る喜び・想像力の発達)
・園芸療法への取り入れ(依存心の高かった人や無気力な人が自然の力によって好転。そこへ馴染みのあるイグサを登場させたい、あのツルツルツルしたイグサに触れてほしい‥・という希望)

考案
畳は、日本固有の文化であると同時に、日本人ことに今の高齢者にとっては1つの床材であること以上に、様々な思い出と共に安らぎやくつろぎをもたらすものである。そして、いくら文明が進化しようとも風土までは変わらない。日本の風土にぴったり合った畳、その天然の空気清浄器ともいうべき性能を活かすように生活に取り入れていくことが大切である。

まとめ
科学的な解明はまだ未知の部分が多いが、畳の持つくつろぎパワーは、五感を通じて多くの日本人の心と身体に良い影響をもたらすものと確信している。そしてそれは、他のものには決してなし得ない『畳』だけが持っているものである。
私たちはこれからも畳やイグサの新たな可能性を見出していきたいと考えている。
ひとりの、畳を愛する日本人として‥‥・。

参考文献
「森の香り」香り選書/宮崎良文著/フレグランスジャーナル社/1996年
「香りをたずねて」新コロナシリーズ/広瀬清一著/コロナ社/1995年
「畳の機能と効用―物理的に見た畳の優秀性」/南渾明子著/第2回イグサ・畳フォーラム21/2001年
「リハビリ患者における香りのある和室の効果」/藤島一郎・宮崎良文他共著/日生気誌28(3)/1991年
資料
ワラもイグサも、1本1本はストローみたいです。スパッと切ると・・・こんな風になっています。表面積が大きいんです。


イメージイラスト
森の香りのもとであるフィトンチッドが人体に有効ということは、畳にも同じことが言えるかもしれない・・・近い将来・・・
読み原稿
 私たちは、実習先の高齢者施設にくつろぐための畳の空間が少なかったことをきっかけに、畳のこと、
畳の持つ香りのこと、そして高齢者と畳の関係について、研究を始めました。

@古くは古事記にもその名が残っている畳は、江戸になって一般の人々まで普及されたと言われています。職人たちが知恵と労力を振り絞って完成させた、数少ない日本固有の文化です。あの一畳の畳に、どれだけのワラとイグサが使われているか想像してみて下さい。約30,000本ものワラと、5,000本前後のイグサをぎゆっと圧縮して作り上げています。 OHPにあるように、その1本1本がストロー状で、中身はスポンジ状になっています。ここに畳の能力の秘密がありました。性能についてはお手許の資料に列挙してありますが、特に、空気浄化作用は人間にとって、湿度調節作用は四季おりおり変化する日本の風土にとって、理にかなった素材だといえます。

A現在の日本では、生活の欧米化による畳の需要低下、住宅性能向上による衛生面での問題、品質より価格重視の輸入増加、また化学畳の不法投棄の問題など、畳にまつわる悪い面が多いことも事実です。しかしそれでも、新築マンションの多くに和室が見られるということは、使い勝手のためだけではなく、日常生活の中に、畳の持つ温かさ、安らぎ、そして香りを求めているとはいえないでしょうか?
  私たちが興味を持った畳の香りは、収穫後のイグサを天然染土と呼ばれる泥水につけてから乾燥させる過程で生まれます。この香りが人体にどのような影響を及ぼすのか、嗅覚の面から探ってみたいと思います。
  人間には、病気やケガ、ストレスなどの刺激に対して、心や身体の正常な状態を維持しようとする機能が備わっています。そしで快いと感じた香りの感覚が、自律神経を通じで心拍や血行にも影響し、心身全体のバランスを保つように働くことも報告されています。つまり畳の香りが好きな人にとって、その香りを嗅ぐことは、心にも身体にもいい影響が出る、即ちアロマテラピー効果があるという訳です。
  また、森林総合研究所の宮崎博士は、森の香りのもとであるフィトンチッドという物質が人体に有効であることを、客観的データで証明されました。畳にもフィトンチツドが含まれるため、森の香りと同じ事が言えるのではないかと質問したところ、今の日本では誰も調べていないのでわからないとのことでした。
 探していた答えがない現実に、私たちは大きなショックを受けました。しかしながら、過去に畳について研究されたという、ひとつの大きな手ががりを掴むことができました。

B1991年に発表された「リハビリ患者における香りのある和室の効果』これは、聖隷三方原病院の藤島一郎博士や森林総合研究所の宮崎良文博士らによって共同研究されたものです。畳の香りのする和室リハビリ室と、普通の病室とを比較し、和室の居心地をどのように感じているのかを調査した結果、
 白い壁に囲まれ、ベッドでの寝起きを余儀なくされる病院生活において、このような和室の存在がとても有意義だという裏づけとなりました。私たちは、この研究報告が10年たった今、どのように活かされているのかを知るために、静岡県の三方原を訪れました。
  病院で一番こわいのは院内感染の問題です。和室を導入するにあたってはこの点こも配慮されており、お茶の出がらしによる掃き掃除で畳に雑菌が繁殖するのを防いでいるとのことでした。こちらのリハビリ専門の病棟には、畳のスペースが、リハビリ室に2ヶ所、リハビリ外来の診療室に1ヶ所、そしてOHPにもあるように病棟の廊下のT字路にも1ヶ所ありました。当初の和室の目的は、大腿骨骨折などで療養中の方が痴呆症にならないよう、畳の部屋で日中の活動量を増やすためのものでした。しかし近年では、たとえ脳梗塞であっても早期からリハビリを開始するように変わってきたため、二次性痴呆症を防止しやすくなりました。従って、現在の和室は主にリハビリ患者さんが作業療法士の方と、家での生活を想定しての訓練の場となっています。在宅を目指す患者さんにとっては、階段などの目に見える段差よりも、畳の縁のようなわずかな段差に慣れることが大切になってくるからです。

Cこの病院ではリハビリ室以外にも、出産を間近に控えた妊婦さんの待機場所に和室を取り入れるなど、院内のあちらこちらに様々な工夫が施されていました。中でも一番大きな発見といえば、こちらが日本で初めてホスピスを開設した病院だったということです。その理念をご紹介しましょう。「肉体的な苦痛を取り除くための治療を行うことだけでなく、精神的な苦痛、孤独、不安などを軽減し、患者さんや家族とともに生命の意義を考えつつ、最後まで人間らしく尊厳をもって有意義に生き抜くことができるように援助していく」それがホスピスの役割です。4年前に新しく建てられたこちらのホスピス棟には、礼拝堂やファミリーキツチンなどを備えており、居室は全て個室になっています。こちらが部屋の間取り図です。全室とも、窓からは明るい陽射しが差し込み、中庭の緑を見渡すことができます。そして、畳の小上がりスペースがここにも使われていたのです。

D四半世紀近く、日本型ホスピスのあり方を追求し続けてきた三方原病院のホスピス棟で、そこに畳の存在を見た時、スウェーデン研修で見た高齢者施設を思い出しました。全室個室なのですが、電動ベッド以外は全て私物で、その人のこれまでの生活に馴染み深い家具やインテリア、家族の写真などがたくさん飾られていました。これらが安心をもたらし、痴呆の進行を妨げると考えられているのです。日本の高齢者のほとんどは、畳での生活歴を持っています。畳は、ひとつの生活様式という見方もありますが、むしろ、生活に密着した、馴染み深いものであると言えましょう。ホスピスにおけるたった2畳の畳は、家族の宿泊を可能にするだけでなく、日本人にとっての畳、ことに今の高齢者にとっての畳がどんなに大切なのかを私たちに教えてくれている気がします。これまでの研究を通じて、いつのまにか畳であることの理由を探していた私たちは、藤島博士の「だって畳があるとくつろぐでしょ?今ここにある和室がなかったとしたら、殺風景だよ」という言葉に、高齢者にとっての畳に理由はいらない、しいてあげるならそれは、日本人だから、という結論に達しました。

E私たちは今、畳屋さんたちと協力して、イグサを育てたり、畳やイグサを使った小物作りに取り組んでいます。いくつかご紹介しましょう。1つめは、畳表を使った小物入れです。畳屋さんの力作です。2つめは、畳表をほぐして何本かのイグサを三つ編みにしたアクセサリーです。ペンダントにもブレスレプトにもなります。3つめは、畳メンバーの山本さんが作ったイグサのクリスマスリースです。畳表をほぐして使うことは、もともと畳屋さんにはない発想で、私たち素人ならではのものでした。畳のこれからを考えた時、本来持っている性能を活かすよう取り扱うことを前提に、それ以外にも畳やイグサをこれまでにない形で生活の中に取り入れていき、少しでも多く触れられる機会を作っていきたいと考えています。
 科学的な解明はまだ未知な部分が多いですが、畳の持つくつろぎパワーは、五感を通じて多くの日本人の心と身体に良い影響をもたらすものと確信しています。そしてそれは、他のものには決してなし得ない「畳」だけが持っているものなのです。

〜ごあいさつ文〜
 ご無沙汰しております。その節はご多忙中にもかかわらず貴重なお時間ならびにご指導を頂きましてありがとうございました。
去る11月22日に無事発表を終えましたこと、ここにご報告いたします。約1年間の活動を通じて「畳っていいな」「日本人で良かったな」の思いを新たにしています。当日の資料をお送りいたしますのでちょっとした合い間にでも目を通して頂けると幸いです。頂いた教えが全て形になったわけもなく、ご意見も数々あろうかと思いますが、私どもの未熟さゆえのこと、どうぞお許し下さいませ。畳の縁(えん)で知り合えた皆さんが心優しい方ばかりだったことは模索を続ける上でとても勇気づけてくれました。あらためましてお礼を申し上げます。
 これから日一日と寒くなってまいります。お身体をご自愛くださいませ。
平成13年11月26日
東京福祉専門学校
介護福祉課U部3年
大塚・菅野・野口・山本・田中
〜メンバー寄せ書き〜
 今まで知らなかった沢山の事を、教えていただきましてありがとうございました。これからも「畳を愛する日本人」として、生きていく事を誓います。 <菅野>

 畳についてくわしく知ることができとても嬉しかったです。ありがとうございました。 <大塚>

今まで以上に畳の事を知る事ができ、本当に良かったと思います。これからも畳をもっと愛していきたいです。 <山本>

今までたくさんの事を教えていただき、ありがとうございました。ますます畳の事が大好きになりました。 <野口>

実際にご訪問させて頂いてから長い時間がたってしまったことお詫び申し上げます。最初は点でしかなかったものが次第に線となり最終的に形にできたことは私たちのこれからに自信を与えてくれました。本当に皆様方のおかげです。ありがとうございました。 <田中>

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